懸垂

懸垂は子供の頃から身近にある筋トレであり、シンプルで分かりやすいメニューです。その気軽な感じが逆に懸垂の奥深さに気づかない弊害を生み出しています。懸垂はやり方を突き詰めると、背筋のトレーニングはもちろん、上半身の主要筋肉を鍛えられるオールマイティ性に気づかされます。効果の割に人気が低く、意外にルーチンに取り入れていない人が多いものですから、今一度、懸垂の魅力を見直していただきたく懸垂のプレゼンをさせてください。

15秒ネット漫画サイト IKECO

懸垂のメリット・効果は?

懸垂の背中に及ぼす筋トレ効果

広背筋を狙えるベストな種目
懸垂は主に三角筋・大胸筋・広背筋・上腕三頭筋など腕・肩・背中を鍛えられるメニューです。中でも「広背筋」ダイレクトに集中して鍛えられるのは大きなメリット。広背筋の筋トレメニューはともすると他の筋肉に負荷が散りがちであり、特に多いパターンが、広背筋を追い込む前に腕や肩の筋肉が先にオールアウトしてしまいます。また体感しづらい筋肉であるため、別の筋肉へ負荷が移動していることに気づきづらい。このような広背筋特有の問題を排除してくれるのが懸垂であり、そのやり方もシンプルで難しくありません。

背中の定番ラットプルダウンより広背筋に集中できる

ラットプルダウンは広背筋を鍛えるメニューと有能ですが、重量をアップさせた際に体を浮き上がってしまうため、脚や腰まわりを力ませてそれを阻止します。この力みのために広背筋への集中が散ってしまうのがラットプルダウンの課題点。ベルトや専用ツールで固定する対応策がありますが、手軽さという点では懸垂に軍配があがるでしょう。

もちろん懸垂とラットプルダウンでは全体的な作用の質が違うので同じ土俵では語れません。
しかし広背筋への刺激を求めるなら段階的に以下のようにアプローチで進めてみてください。

  1. 懸垂ができるなら最初は懸垂、まったく出来ないなら最初は低重量でラットプルダウン
  2. 中レベル以降は重量調整がしやすい高重量でラットプルダウン
  3. 高レベルに達してきたら、ベルトを巻いて重量をつける懸垂を取り入れる

手軽さと広背筋への集中度合いを鑑みるとこの3ステップがベストだと考えられます。

 

厚みのある背中づくり・逆三角形の背中づくり
懸垂はカラダの角度や持ち上がりの高さによって、腕・背中・肩・胸と負荷ポイントがどんどん変わっていきます。肩ラインから背中の上部から下部まで万遍なくしっかり鍛えることができます。厚みのある背中メイクや、逆三角形タイプの背中づくりに役立ちます。背中をつくる王者の種目といっても過言ではありません。

ムダ肉のない、背筋ラインが美しい背中美人
女性が背中トレーニングを行うと、まず背中のムダ肉が取れて、段々と背中全体にハリが出てきます。筋肉がついてくると背筋ラインの縦一線がくっきりと浮かび上がってきて、そのカーブが背中の美しさを引きたててくれるのです。懸垂は美しい背中づくりのためには外せません。

基礎燃焼を上げてダイエット効果が高い
筋トレダイエットなら大きな筋肉を優先的に鍛えるのが定石です。
その理由は、体面積の大きな筋肉は基礎代謝量が多く安静時でのカロリーを消費してくれるから。必ず鍛える対象にすべきなのがカラダの筋肉でもっとも大きな面積を誇る「広背筋」です。広背筋をダイレクトに狙える懸垂はダイエット効果が高いトレーニングメニュー。

肩や肩甲骨まわりの血液循環に刺激を与えてくれる
デスクワークを1日中やっていると肩や肩甲骨まわりが凝り固まり怠い感覚がどんどん醸成されていきます。そんな肩周りの血流停滞を解消してくれるのが懸垂。筋肉に刺激を与えることで、懸垂をやった後に肩や背中上部の血液がドクドクと躍動し始め、淀んだ疲れを改善してくれます。仕事の質を高めるためにも、これからのオフィスには「ぶら下がり棒」が必須なのではないでしょうか。

 

懸垂の筋トレ方法

懸垂は「バーの握り方・手幅・フィニッシュの位置・上半身の傾き角度」によって作用が変わってきます。まずは基本的なノーマル懸垂のやり方をお伝えします。

  • バーの握り方:順手・手ひらが自分と反対側に向く
  • バーの手幅:肩幅よりやや広め
  • フィニッシュの位置:顎がバーの高さになるまで
  • 上半身の傾き角度:やや胸を張って背中を反らせる

【準備】

  1. バーを肩幅より広く順手で握る
  2. ぶら下がる
  3. 目線はバーの顎をもっていく予定位置を見つめる
  4. やや胸を張って背中を反らせる

【動作】

  1. 肘を曲げながら、腕の力ではなく背中の力で体を持ち上げていく
    初動は上腕三頭筋・途中から広背筋が作用する
  2. 肘が90度ぐらいまで曲がる状態まで
    背中が持ち上がったら、胸をバーに近づける意識で
    カラダ全体を持ち上げる
    胸を張って肩甲骨を寄せるイメージで
  3. 顎がバーラインまで来たら2~3秒キープ
  4. ゆっくりと重力に逆らうように、カラダを落としていく
    上げる時よりスピード調整を意識します
15秒ネット漫画サイト IKECO

 

手の握り方

サムレスグリップとはバーを握る際に親指がバーをしっかり握らせずに、バーに添えて握る方法です。次の画像がサムレスグリップでの懸垂ですので、見てもらうと分かりやすいでしょう。

さらに右側がサムレスグリップの握り方を示した例で、非常に分かやすい対比です。親指をバーに添えているという表現は言葉でいうと難解ですが、イメージでみると何だそれだけ…と感じるでしょう。しかし、左と右の握り方で作用はまったく変わってきます。

手の握り方で作用が変わる
手の握り方で作用は変わります。順手にするか、逆手にするか、はたまた親指だけ離すなどなど、実験してみると肉体構造の面白さを実感できるでしょう。ここをこうやると、この筋肉がON、この筋肉がOFFになるんだな、と机上では得られない体感知識を獲得できます。

 

工夫ポイント

バーより顎を上にさらに上げていくと、胸と肩に負荷が行く
肩の高さまで体を持ち上げる方法は、胸と肩までも負荷を与えられます。やり方は、2段階停止のイメージでやると、鍛えるべき部位をはっきり意識しやすくなります。顎がバーまでの前半は背中、後半は肩と胸という順番。

  1. 肘を曲げながら、腕の力ではなく背中の力で体を持ち上げていく
  2. 顎がバーラインまで来たら2~3秒キープ
  3. 手順は以下のとおり、二度停止させるのがポイントです。
  4. 顎とバーの高さでいったん停止キープ
  5. それからまた上にゆっくり体を持ち上げる
  6. 手が肩の高さになった停止キープ
  7. ゆっくりと体を落としていく

胸を反らせるか、反らせないかで、作用が変わる
ベンチプレスでは胸を反って肩甲骨を寄せてくっつけるパワーフォームというやり方があります。パワーフォームに対して、胸を反らせず肩甲骨も寄せないフォームをベタ寝と表現したりします。それぞれメインで作用する筋肉が変わり、パワーフォームは背中、ベタ寝は大胸筋という一般的な特徴があります。

この上体の姿勢が懸垂においても作用します。バーに近くなった際に、肩甲骨を寄せることでより背中を使いやすくなります。大胸筋狙いなら寄せない方がいいでしょう。寄せた場合と寄せない場合で作用を確かめてみてください。背中と胸・肩など作用が変わるのを実感できるはずです。目的に合わせてカスタマイズ・調整できるようになればグッと面白くなります。

 

懸垂のポイント・疑問

懸垂の注意点

広背筋狙いなのに腕や肩に負荷がいく
はじめは気にしなくていい問題ですが、徐々に慣れてきたら広背筋を利用しているか、体感チェックをしましょう。腕や肩の力の割合が多くなりがちですから、定期的に意識にメスを入れるのをオススメします。

まず持ち上げる力の養成を最優先に
何よりよくある問題は腕の方が先にまいってしまって、とても広背筋に力を集中させることが出来ないこと。そんなときは最初に腕の力を養成するつもりでやった方が早道です。

持ち上げることを最優先にしましょう。1度やってフォームに凝り固まらず、フォーム調整を行うように取り組めば、広背筋狙いは後から充分できます。ある程度、上半身全体の力を養成しないと懸垂はコントロールできません。

作用に個人差がつよい種目
懸垂に関しては作用に個人差がつよい種目であり、どの状態がどの筋肉をうごかすのか?自分なりの筋肉作用に対する体感力を磨くとチェックと調整がしやすくなり濃度の濃いトレーニングになります。

懸垂で筋肉痛にあまりならない場合のチェック事項
懸垂をやっても他の部位とくらべて筋肉痛にならならず不安になるようでしたら、次の3つのチェックをしてみましょう。

  • 懸垂で狙いにしているところはどこか?
  • その場所が筋肉痛になっていないのか?
  • 狙いの場所に負荷がかかっているだろうか?

筋肉痛の発生は筋肉成長の絶対条件ではありませんが、刺激の証であることは間違いありません。狙いと実フォームのズレや強度不足が考えられる主要因です。そんな時は以下の対応を入れてみてください。

  • よりゆっくり動作させる
  • 反動を使わないよう、切り返しでしっかり停止させる
  • フォームを調整する
  • 重量をつける

重量はすべての条件をクリアした上で行います。まずはスピード・反動除去・フォーム調整に取り組みます。

回数・セットの目安は?

懸垂の1回は、反動の有無、1回の時間の長さ、フォームの内容等によって質が変わります。目安として以下の3つを組み合わせて長期的な強化に取り組むのをオススメします。

A:8~12回×3セットを目安にするやり方
1セットを8~12回を目標に3セット行う一般的なパターン。目標の主はとにかく持ち上げる力を養成することで、フォームはあまり気にせず、顎がバーにいくことを目標とします。最初は持ち上げる力の養成が必要です、その力の源泉は腕であり肩。初動の持ち上げ力がついたら広背筋への狙い集中へシフトしやすくなります。

B:1セットの時間を基準にする
3セット×12回ができるようになったら、広背筋へ負荷を高めるべくフォームの調整を行います。その基準として1回の時間を以前よりスローにすること、より長い1回の上げ下ろしが出来るようにします。

持ち上げ初動エリアを過ぎると広背筋が活躍するゴールデンゾーンになりますから、ここをゆっくりと通過するにように。上げるともき下げるときもゆっくりと動かしす。

1回あたりの時間を計測するのは大変ですから、1セット単位で考えましょう。スマホのストップウォッチ機能が便利でオススメ。自身の相対的な時間の伸びを確認するためですから、準備動作の時間は同じにするよう気を付ければいいでしょう。

C:1セットで何回できるかチャレンジする
2週間に1度、1セットのみで何回チャレンジできるか試してみる自己チェック企画。
1セットの時間と回数を図りましょう。1回あたりの時間を算出して、自己規定より早い場合はアウトとて、回数に挑むのです。効果チェックとモチベーション維持がその目的。

 

肩の関節を痛めないよう、痛み・違和感に向き合う

肩の構造は非常な繊細なバランスの上に成り立っています。可動域の多面的な広さに加えてパワーとスピードをさばく力も備えています。とても強靭に思えますが、一度故障すると癖になり、特にスポーツ選手や肩を多用する仕事に人にとっては生活に関わる問題に直結します。
痛み・違和感には対して感度を高めて、何かしらの合図だと受け取ってそれ以上の負荷や酷使を一度停止させましょう。特に慢性的な違和感や突発的な痛みを感じる場合は必ず専門医に相談することです。

 

 

懸垂が出来ない場合の簡単バージョン

初めは斜め懸垂(逆腕立て伏せ)から

懸垂で体を持ち上げるのが難かしい場合、まずは「斜め懸垂」から行います。使用するのは公園にある鉄棒。

斜め懸垂

鉄棒に腕を真っ直ぐにしてぶら下がり、足を前方へ持って行ってカラダを真っ直ぐにします。真っ直ぐにした腕と体の角度が90度になるように、腕立て伏せの体勢を反対向きにしたような構図になります。

逆腕立て伏せの構図で鉄棒にぶら下がった状態から、カラダを持ち上げていきます。
腕を曲げて胸を鉄棒に向けて近づけていく。この時に腕に力ではなく、背中の力で体を引き上げるようにします。
はじめの初動には上腕三頭筋の力が必要になりますが、ちょっと上がりはじめたら、腕の力を抑えて、背中の力を最大限に活用するように意識するのがポイント。鉄棒に向けて背中を押し出してカラダを持ち上あげていくようなイメージです。

鉄棒は、高さの違う鉄棒が3種類あると強度を変えられるので理想的です。はじめは最も高さのある鉄棒で行い、そこから徐々に低い鉄棒でチャレンジしてきます。

斜め懸垂の詳細の解説をまとめます

【準備】

  1. 鉄棒を持つ
  2. 順手で肩幅よりやや広めに鉄棒を握る
  3. 鉄棒に腕を真っ直ぐにして鉄棒にぶら下がる
  4. 足を前方へ進めながら、足から背中・頭まで一直線に真っ直ぐに伸ばす
  5. 腕と体の角度が90度になるように調整する

【動作】

  1. ゆっくりと腕を曲げて、カラダを持ち上げていく
  2. 少し上がったら背中の力を意識し、背中で持ち上げていくように
  3. 鎖骨あたりをバーに近づけていく
  4. 鎖骨がバーの前の近くまできたら、2~3秒停止して体勢をキープ
  5. ゆっくりと体を落としていく、重力に逆らうように背中の力でスピードを調整する意識で行う

自宅で出来る斜め懸垂の方法は…ない
公園まで行ってまでトレーニングするのは手間であり周りの視線も気になります。自宅で実施する斜め懸垂の最適な方法は懸垂専用のツールを使うことです。結局購入かーい!とケチがつくところですので、代替として安く購入する方法をお伝えします。
一番いいのはリサイクルショップ店での掘り出し物探し。中古の定番カテゴリーのひとつとして「筋トレグッズ」が挙げられます。
腹筋器具・ダンベル・懸垂棒・腹筋ローラーなどなど賑わっていますので是非お近くのリサイクルショップを覗いてみてください。引っ越し屋さんがやっているリサイクルショップは懸垂グッズのような大型なツールが豊富です。4月と9月が在庫多め。

テーブルに潜り込んでの斜め懸垂は危険
自宅でテーブルなどで代用する方法がありますが怪我・事故のリスクが非常に高いため絶対に止めましょう。斜め懸垂で手が滑った時は、強く頭を床に打ちつける、テーブルが倒れてくるリスクがあります。私は自宅のテーブルで斜め懸垂を行って、慣れてきた頃に手を滑らせて床に肘を強打して、肩を痛めるという情けない経験があります。代用する際には支えとなるツールの安定性が確保されていること・そのメニューから発生するリスクの想定とカバー対策を考えてからやるべきです。

 

懸垂をルーチンへ復活させる!

懸垂は上半身の筋肉をオールラウンドに鍛えられるメニューです。代表的な筋肉は、三角筋、広背筋、僧帽筋、上腕三頭筋、大胸筋などアッパーボディの主要パーツを全て網羅しています。
やり方によって作用するポイントが変化していくので自分なりの作用研究をすると懸垂の面白味が深まります。握り方を変える、胴体を持ち上げる軌道を変える、持ち上げる高さを変えていく、この3ポイントを変化させるだけでも、作用ポイントがまったく変わります。
シンプルな動作ですが負荷のかけ方、作用ポイントを探求する伸びしろが広くあります。背筋を鍛えるメニューとしてだけでなく、上半身の総合メニューとして取り入れたい。自分なりの工夫を重ねていけば、より多次元なメニューとして進化させることができるでしょう。

いい懸垂を!

懸垂 - chin-up